日本はカウンターサッカーをするべきか?

てらのツイッターより


>思ったんだけど、日本みたいなフィジカル弱者って、相手より運動量を増やして、攻守の切り替えを早くしたカウンターサッカーをするべきじゃないの?



という話があった。折角なので俺の意見を





フィジカルが単なる肉体パワーのことを指すのかもっと広い意味での個々のサッカー能力を指すのかはわからないけど、後者だと思って話す


たしかにカウンター戦術に徹したチームが一瞬の隙をついて強豪国を倒す、みたいなイメージはある。今大会で言えば、ドイツに勝ったメキシコがまさにそれにあたるだろう

観てない人は、下記のURLでざっと試合内容を確認してほしい

https://m.youtube.com/watch?v=0kOJOdBuGiQ



今回の記事ではこの試合をモデルケースとしたりしなかったりして、カウンターサッカーとは何か、またそれの実行に必要な諸要素について考えていきたい





そもそもカウンターとは何か?というところから


>攻め込まれていた側がボールを奪った際、相手チームの守備の態勢が整わないうちに素早く相手ゴール前にボールを運び攻撃する戦術


>自陣深くで守備を固め(リトリート)、低い位置でボールを奪い、ロングボールなどで反撃するロングカウンターや前線からのプレスなどで高い位置でボールを奪い、反撃するショートカウンターなどがある


というものである(wiki引用)


順番に見ていこう




◼︎ロングカウンター


メキシコのサッカーはまさに堅守速攻そのもののロングカウンターだった。ボールを持てない弱小国の「うちはカウンターサッカーだから…(震え声)」みたいなカウンターもどきではなく、選手の性質に噛み合っているし個々の選手に意識が徹底されている、まさに戦術だった


じゃあなんでメキシコのロングカウンターはうまくはまったのか


ロングカウンターの成功要因というか、うまくいくための条件は2つあると思っていて

①相手に長くボールを持たせても点を取られない守備力

②速い展開で敵守備陣を突破できる個の力

堅守速攻の、堅守と速攻だね。この2つがちゃんとできるかが鍵になる


フルタイムで見ればわかるけど、メキシコはこの二点において素晴らしかった。ガッチガチに引いてバイタルエリアのスペースを完全に消し、徹底したトライアンドカバーの意識づけで苛烈なドイツの攻めを受けきった。攻めあぐねるドイツのミスからひとたびボールを奪うと、すぐに能力の高い前線のタレントにボールを渡し、敵が戻りきる前にゴールチャンスを作る動きを繰り返した



じゃあ日本でこれをやるのはどうか?


①堅守:ないではない

酒井吉田昌子長友の四人は、コロンビア戦を見ると想像していたよりかなりデュエルが強かった。中盤に長谷部と山口を置いてチーム全体で咎めるラインの意識を徹底すれば、一年くらいで形にはなると思う。ただし日本代表の守備というと、人数がいても単純に突破能力の高い選手に翻弄される印象があること、高さのない長友の裏をとられるケースを容易に想像できてしまうことが不安要素か


②速攻:ない

速攻にはスピードと足元の技術を持つタレントの存在が不可欠だが、そんな人材はいない。うん

浅野あたりがもう少し成長すればワンチャンあるかもしれないが、それこそメキシコにおけるチチャリートのような役割を持てる選手がいないのが現状



というわけで、日本でこれをやろうとするとただのアヘアヘガン下がりおじさんになってしまう可能性が高いと思う

ロングカウンターって90分の試合を通して敵にゴール率5%の攻撃を15回やらせて40%の攻撃を4回やるで!って戦術なんだけど

今の日本でこれをやると、8%の攻撃15回やらせるのに20%の攻撃5回しかできないみたいになりそうかなって思う

安定して0-1や0-2で負けそう



◼︎ショートカウンター

 

ショートカウンターは、前からどんどん敵のボール回しにプレッシャーをかけて高い位置でボールを奪い、そのままゴールチャンスを量産するといった戦術だ

ロングカウンターがロースコアゲームを想定した戦術なのに対し、ショートカウンターはハイリスクハイリターンな点の取り合いを想定した戦術になる

相手のゴールに近い位置でボールを持てればその分チャンスも増える。そりゃそうだ

ただ高い位置からプレッシャーをかけるということは、その分味方選手同士の距離が間延びし相手にスペースを与えることでもある。コート半分に11人が配置されているのとコート全体に11人が配置されているのでは、オープンスペースの量が違うよねという話

プレッシャーのかけ方を間違えれば簡単に相手のチャンスを作らせてしまう、まさに諸刃の剣のような戦術だ


ショートカウンターで有名なチームといえばなんといってもリヴァプール。クラブのワールドカップとも言われるChampion's League(以下CL)で今季準優勝を果たしたリヴァプールは、ゲーゲンプレスという手法での徹底したショートカウンターを主戦術とした

その結果CLのグループステージ(4チームの総当たりをホームアンドアウェーでやる)では、6試合でなんと23点を叩き出した。ガイジ

CL優勝を果たしたレアル・マドリードでも17点、3位のバイエルンミュンヘンは13点、同じく3位のローマに至っては9点である


このことからも、いかに爆発力に長けた戦術であるかはわかってもらえると思う



ショートカウンターをやる上で重要なのは、豊富な運動量と前線の守備における連動力

この戦術はとにかく走る。前線からボールを奪いにいくというのは、犬のようにボールを追いかけ続けるということだ。口で言ってもわかりにくいと思うので、動画を載せておく。こんなん90分もやったら本当に死んでしまう。筆者は見ているだけで疲れる

前述のリヴァプールも陸上部と揶揄されることがあるくらい、とにかく走ることが求められる戦術なのだ

https://m.youtube.com/watch?v=FtNALeubiUk


前線の守備における連動力というのは少しわかりにくいかもしれない。たとえば今相手がボールを持っていて、彼にパスコースが3つあったとする。その選手にボールを取りに行くプレッシャーをかけたタイミングで、2つのパスコースには味方のマークがついているが残りの1つは空いていたとしよう。するとどうなるか。ボールを取りに行った動きも、マークについた動きも、ぜんっっっぶ無駄になる。そして一本のパスで3人がかわされたことになる。人数をかけてボールを取りに行く分、かわされた時のリスクは尋常ではない

…というのを図解したつもりなのが下の図。赤が敵、赤い星がボールの位置、青が味方、黄色がパスコース


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だから、連動力がとても大事になる。危険なパスコースを全て潰した上で、プレスを仕掛ける必要があるのだ



じゃあ日本でやるのはどう?というところ

正直これはかなりハマると思う。というか今も普通にやっている。今の日本のタレントはみんなちゃんと走れる。大迫原口あたりは運動量がウリの選手だし、コロンビア戦では乾香川の運動量も光った。この両名は元々よく走るタイプでもなく、負担が重いから途中で交代したという側面も大きいと思う

じゃあ連動力があったのか?っていうと、正直そんなになかったかなあという印象。でも連動力がないことがちゃんとみんなわかってるから、無理にプレスをかけることもあまりしていなかった。さっき言ったように、パスコースが空いてるのにプレス行くのはマジでアホだからね

ここの精度を高めれば普通に戦術として機能するようにはなると思うけど、実はそれが難しい。代表チームはクラブと違って、チーム単位で練習できる時間が短いからだ。ワールドカップが終われば年に2.3回の親善試合か、次のワールドカップの予選のタイミングでしか選手が集まらない。そんな中で細かい動きをチーム全体で共有できるかというと、クラブのそれに比べて当然精度は落ちてしまう

たださっきも言ったけど、これは別に90分間を通した主戦術にしなければ成立しない戦術ではない。うまくタイミングが合った時にショートカウンターを狙うという意識をチーム全体が持つだけでも、ゴールチャンスは確実に増える




というわけで、少し長くなったけど日本代表とカウンターサッカーの親和性について考えてみました

まーそもそも個々の能力あっての戦術だし、ワールドカップはクラブの試合と違ってステータスの殴り合い的な側面が強いということも事実だと思う。ほとんど個人的な意見なので、まあこういう見方もあるなという程度で考えてくれれば嬉しいです



この記事を読んで興味を持ったら、ドイツvsメキシコを是非フルタイムで観てほしい。NHKのアプリで観れるから

ここでは触れなかったけど、ドイツの攻撃のバリエーションも半端ねえよ。形としてはメキシコが完璧な守備してるのに、個々の能力と連携力でそれを突破していくのは本当に素晴らしかった。ゴールは出なかったけど、ゴール率40%のチャンスを何度も作っていたから、ドイツが勝っていても全然おかしくないゲームだったと思います