先日沼津に旅行をした。
漁港で海鮮を食べたり、めんたいパークだのわさびミュージアムだの深海水族館だのに行ったり。
初めて訪れた沼津は派手さはないものの人も飯もよく感じられ、彼女共々旅程を楽しめていた。
2泊3日のうち2泊目は少しいいホテルに泊まった。
朝は早く起き、エレベーターで2階の朝食ビュッフェ会場に向かう。
案内されたのは昨晩食べた懐石料理とは別の会場で、一般的にイメージするホテルビュッフェ的なものも抑えつつ、魚料理を中心に土地のものも用意されている。
用意された席に着くと、じんわりとした充足感に包まれた。
私は旅行の行程の中でも、このホテルで朝食をとる時間がかなり好きな方だ。
食事という行為自体は日常的でありながらその在り方は非日常的で、そのバランスが「旅行」というものを強く感じさせてくれる。
一旦席を離れ、お互いの好きなものをとって席に戻る。
今日の予定をなんとなく相談しながらゆっくりとした時間を過ごすことができていた。
そんな中で唐突に事件は起きた。
普通に生きていてまず遭遇することのないようなとんでもねえ清潔感(不潔感?)のオタク群が、朝食ビュッフェの会場を突如占拠したのだ。
死神が来てしまった。身構えていなかったせいで…
初めにそのことに気づいたのは、意外にも聴覚情報からだった。
席に座って取ってきた料理を食べていると
「スソーーーーースソーーーーー」
という音が一定の間隔で聞こえてくる。
音のする方に目をやると、最奥の席で30代後半とも50代前半ともとれるような年代の男性が、フォークで何かを口に運んでいた。
え、換気扇とかじゃないんだ。
初めに思ったのはこれだった。
おおよそ人間の体から出るような音らしくなかったからである。
たとえるなら、ダースベイダーのマスクから聞こえる「コーホー」という呼吸音。
あれを高く大きい音にしたようなイメージだ。
そんで止まらない。全く止まらない。
何を食べているのかも、どうしてその音が出るのかも、どこから出ている音なのかもわからない。何もわからない。わからないという恐怖。そして周囲を取り巻く強烈な緊張感。
わかるのは、息を吸う時か息を吐く時のどちらかに鳴っている音なんじゃないかということだけだ。
この時点で単にマナーのなっていない人、失礼な人という域を完全に超えていたので、変な意味でなくなんかしらの疾患や障害のある人なのだと思えた。
正直に言えばたまの旅行でそういう体験をするのはあまりいい気分ではないが、疾患や障害のある人にだって私たちと同じ場所で朝食ビュッフェを食べる権利はある。
ホテル側に配慮があれば良かったな…と思いつつ、あまり気にしないように努めることにした。
大人としての正しい振る舞いを周囲に期待する以上、こちらにも相応の態度というものがある。
そうしてなるべく意識をそらしながら食事をしていると、彼の向かいの席に同じ年代の男性が座り食事を共にし始めた。
会話の雰囲気からして、友人のようだ。
すると、先ほどまでの音がピタリと止んだ。
途端に訪れる静寂。
……………
いやいやいやいや。
いや無理だって。
さすがに隠せてないよ。
だって座る瞬間まで音がしてるんだから。
向かいの人にもバレたよお前がオトオトの実の全身楽器人間だってことは。
そんで自覚はあるんかい。
音が出ているという自覚はあるんかい。
ここが私の中で一番の許せないポイントだった。
疾患や障害なら仕方がない。自分ではどうにもならないことは誰にでもあって、その度合いが人より大きい人だっているのだ。
しかし、自助努力の範囲で止められることならば話は別だ。
タバコのポイ捨て。手持ち花火の不始末。
このオタクのダースベイダー音生演奏会は、そういったもののように映った。
そしてふと周りを見てみると、いつの間にか会場が同じ顔をしたオタクに占拠されているではないか。

まずい、囲まれている。
誰が何のためにこんなクローンを作ったのかはわからないが、皆同じ顔で何かしらのキャラが描かれたプリントシャツや法被、ビブスなどを着用している。
会場にいる人を無差別に均一化させる能力者の仕業かもしれない。
その可能性に気づいた私はまだ少し多い珈琲をぐっと飲み干し、殴られたクレヨンしんちゃんくらい渋い顔の彼女の手を取って急いで会場を出た。
後から調べてみると、この日はラブライブのキャラの誕生日?その次の日?で、このホテルはそのキャラの聖地的な扱いになっていたらしい。
知らんがな。泣きたい。
これに関しては、オタクと言うよりホテル側に文句を言いたい。
繰り返しになってしまうが、それなりのグレードのホテルなのだ。
予約時にオタクくん記念日である旨を記載してゾーニングしてくれれば、こちらも自衛できたのに…
まあそれにしたって客層が悪すぎるとも思う。
本当にオタクグッズを着たおじさんしかいなかった。公共の場所で周囲に迷惑をかけるタイプの人間は厳しい。
自分も美少女アニメコンテンツのキモ・オタクだった時期があるのであまり悪様に言いたくないが、それにしても厳しかった。
皆さんにおかれても、旅行先が美少女コンテンツ的な町おこしをしているかの確認はゆめゆめお忘れなきよう。
沼津自体はいい街だったので本当に残念だった。
☆3。リピなしです。

